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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

グンダーマン 優しき裏切り者の歌

東ドイツ、東ベルリンを舞台にした記憶に残る映画といえば、『トンネル』(2001)『グッドバイ、レーニン』(2003) 『善き人のためのソナタ』(2006)『東ベルリンから来た女』(2012)『ハイゼ家 百年』(2019) などが挙げられるが、圧倒的にスリリングで面白かったのはスティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演、ジョエル&イーサン・コーエン脚本『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015) だった。ベルリンの壁建設からスパイと軍人の人質交換まで、冷戦時代の恐怖を映画的サスペンス満点に描いた名作。 本作『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』も東ドイツが舞台だが、『ブリッジ・オブ・スパイ』のようなエンタテインメント作品ではなく、佳作『善き人のためのソナタ』に近い感触の、人間ドラマだ。主人公は“東ドイツのボブ・ディラン”と呼ばれた実在のシンガー・ソングライター、ゲアハルト・グンダーマン(アレクサンダー・シェーア)だから、それも『善き人のためのソナタ』の主人公の劇作家に近い存在。昼間は炭鉱で働き仕事が終わるとステージで自作の曲を歌うアーティスト。だが、彼には隠された別の顔があった。労働者のヒーローとして喝采を浴びる一方、職場の仲間や友人たちを監視し、国家保安省(シュタージ)に密告するスパイとしても活動していたのだ。しかし、1990年の東西ドイツ統一後、同じようにスパイだった友人に裏切られていたことを知ったグンダーマンは、その矛盾を抱えたまま43年の短い生涯を閉じる。 監督は、1963年生まれ、現在ドイツで最も注目されているという東ドイツ出身のアンドレアス・ドレーゼン。ドイツで権威のあるドイツ映画賞(2019)で作品賞、監督賞含む全6部門で最優秀賞を獲得。褐炭採掘場のパワーショベル、首都に通じるハイウェンなど物語に関関係ない挿入カットが、主人公の孤独と絶望を際立たせる佳作だ。

21/5/12(水)

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