「必要なのは相互理解だ」。池松壮亮が演じる主人公の剛は言う。その言は正しい。でも、行動はまるでなっていない。
彼は、妻を病気で亡くし、まだ幼い息子を連れて、日本から韓国にやってきた。ソウルに暮らす兄から金が稼げると聞いたのだ。本業は小説家だが、今は売れていないらしい。
韓国語はわからない。他人の言動を勝手に解釈して、日本語で語りかける。それではわかり合えるはずもないのに。売れない歌手のソルに好意を抱き話しかけるが、不気味に思われるだけ。
剛たちはいろいろあって旅に出る。ソルもまた、兄妹と一緒に旅に出た。同じ電車に乗り合わせた二組の家族は、これまたいろいろあって行動を共にし始める。
どうすれば、人は人とわかりあえるのか。そもそもなぜ、それが必要なのか。多くの人がうやむやにしているテーマに、石井裕也監督はあえて向き合う。韓国のチームと一緒に映画を作りながら、いわば、体験的に。
自分をさらけ出すことからすべては始まる。「天使」は、その背中を押す存在……のようなのだが、思いがけない姿をしている。それに対峙した時のソルのうそのない言葉が振るっている。本当のことを、ちゃんと伝えるって、なんてすてきなんだろう。実はそれは今の世の中が一番必要としていること。
うやむやにしない。最近の石井作品を貫く気概が、本作にもみなぎっている。