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春日 太一
映画史・時代劇研究家
アナザーラウンド
21/9/3(金)
新宿武蔵野館
家ではできるだけ飲酒しないようにしている。仕事場も我が家にあるため、仕事中でも好きな時に酒は飲める。それだと、もし執筆が捗らない時にアルコールを摂って原稿が進んだりすると、もうアルコール無しでは書けなくなるのでは……という気がするからだ。その先に何が待ち受けるかを考えると、恐ろしい。 本作を観て、その思いが強くなった。 主人公のマーティンは高校で歴史を教えているのだが、その授業を生徒や保護者から退屈で支離滅裂だと批判され、酷く落ち込む。そんな時「血中のアルコール濃度を0.05に保つと体中に力と勇気がみなぎる」という友人の仮説を聞いた。試しに少量の飲酒をして授業をしてみたところ、堂々とした態度で生徒が大喜びする話ができた。教員仲間たちも、それに続いた。彼らは自信をみなぎらせていくが、徐々にアルコール濃度を増やしてしまう……。 マーティンを演じるマッツ・ミケルセンが素晴らしい。 序盤のパッとしない中年男から生徒たちの人気者への変貌。それが再びの転落。全ての様が実に生々しく、アルコールの魔性に囚われる恐ろしさを痛切に伝えていた。同時に、その危うくも哀しい影には放っておけない気分にさせられ、思わずキュンとさえしてしまう。 酒好きにも、ミケルセン好きにも、必見の作品だ。
21/9/3(金)