評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
人気ブロガーが話題の展覧会を深掘り
Tak
美術ブロガー
民族衣装 -異文化へのまなざしと探求、受容-
21/11/1(月)~22/2/7(月)
文化学園服飾博物館
今あなたが着ている服も、もしかしたらどこか遠い国の民族衣装から、インスピレーションを得たデザインのものかもしれません。民俗的なアクセサリーや民族衣装のデザインを取り入れた「フォークロアスタイル」は、ファッション業界で人気を博し多くのアイテムが発売されています。グローバル化が叫ばれて久しく経ちますが、民族衣装に対して、漠然と異国への憧憬を抱いているのは、洋の東西を問わず大差のないこと。ただ単に憧れだけでは、かの国の文化の片鱗、美味しい所だけを齧っただけに過ぎなくなります。 民族衣装をただ称揚し展示するだけの展覧会を文化学園服飾博物館が開催するはずもなく、内容はかなり攻めの姿勢が見受けられ、非常に学びの多い展示となっています。今でこそ民族衣装はファッションの一部として気軽に取り入れられるほど身近な存在ですが、15世紀半ばの大航海時代に海を渡り未知の国へ人々が行くようになる前は、概念すらなかったはずです。安土桃山時代にスペインやポルトガルからやってきた、奇妙な格好をした南蛮人を目にした日本人はさぞかし驚いたでしょうが、同じくらいに彼らも日本人の民族衣装に興味津々だったはずです。 昔も今も、異国への憧れともの珍しさが手伝い、同じような民族衣装の受容が知らぬうちになされています。(チュニックやティアードスカート等々、今回の展示でも紹介されていました。)その他にも、かつて「大東亜共栄圏」を唱えた日本が、陸軍被服協會主導で東アジアや東南アジアの国々の民族衣装を蒐集していたことも紹介されており、同時に軍が集めた今となっては貴重な民俗学資料も展示されています。また、現在民族衣装が直面している問題点も提示されています。グローバル化や染織の近代化・機械化によって安価な量産品も多く出回ることで、その土地土地の染織技術の継承が危ぶまれている点もパネルで言及されています。 最後のセクション(第2展示室)では、より身近な問題として「文化の盗用」にまで踏み込んで、民族衣装からヒントを得た西洋のメジャーブランドのアパレルと、その元ネタである民族衣装が同時に展示することで、ファッション業界の意識改革、各民族の育んだ文化への真の理解や尊重を促しています。全体を通し非常に見ごたえがあり、そして文化の多様性とは一体何なのかをあらためて考えさせられる充実した展示です。コロナ禍で図らずしもグローバル化の意義や問題が浮き彫りになってきた今。衣食住の中でも最も身近で興味関心のある衣服の側面から「民族」について考えてみる好機でもあります。
21/11/28(日)