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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

世界で一番美しい少年

「世界で一番美しい少年」ときいて、『ベニスに死す』のあの少年を思い浮かべる人は必見。まさに、あの美少年、ビョルン・アンドレセンを主人公にした映画だ。 アンドレセンは現在、66歳。2020年2月に日本でも公開された『ミッドサマー』に出演し、驚かせたばかりだ。 当然、もう「美しい少年」ではないが、「世界で一番」かどうかは別として、あのギリシャ彫刻のような容姿は維持されている、美しい老人だ。 まず、現在の悲惨な状況、借りている部屋を退去させられそうになる衝撃的なシーンから始まる。やがて複雑な家庭に育ったことが、ほのめかされる。その後、ヴィスコンティに「発見」されてから、世界のアイドルになるまでが、『ベニスに死す』のメイキングフィルムや映画そのものを引用して、描かれていく。人気絶頂時に日本へ来たときのことも、かなりの時間が割かれている。 しかし、それから彼の生活は暗転していく。さらに、母の秘密、出生の秘密があることも明かされ、冒頭で提示された複雑な家庭の「謎」が描かれる。 驚くのは、幼少期から、写真はもちろん、8ミリと思われるプライベートフィルム(映画)や、電話などの会話の録音があること。いったい誰が撮ったんだろうと思わせる映像も多い。 そのため、ドキュメンタリーなのに、幼少期は子役の俳優が演じているのではないかと錯覚してしまう。 「いま」のアンドレセンを追う映像も、ひたすら美しい。カメラが目の前にあるはずなのに、彼はそれを気にせずに動き、話す。それ自体がシナリオのある演技のようだ。 ドキュメンタリーだと分かっているが、劇映画を観た感覚になった。 『ベニスに死す』で美少年を演じた美少年もまた虚構だったのではないか、そんな気にもなる。刺激的なドキュメンタリーだ。

21/12/8(水)

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