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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

香川1区

ドキュメンタリーである。シナリオはないはずだ。それなのに、劇映画のように「個性的な脇役」が次から次へと登場し、思わぬ展開をみせていく。 タイトルが示すように「香川1区」という小川淳也が立候補する選挙区での選挙戦がテーマとなっている。 前作『なぜ君は総理大臣になれないのか』で、小川淳也がどういう人なのかは描いているとの判断もあるのか、彼の人柄や政策については、それほど深く掘り下げていないので、前作を観てなく、また小川淳也をよく知らない人には、その点がわかりにくいかもしれない。 さて──私も今2021年秋の総選挙では、東京18区の菅直人候補の陣営で、選挙前の広報(印刷物やネットのコンテンツの作成)と、選挙中の遊説などに、ボランティアスタッフとして加わった。菅氏の選挙には40年ほど前から関わっているので、選挙がどういうものかは、普通の方よりは分かっているつもりだ。 しかし都市型選挙の典型である東京18区と、香川1区という地方とでは、選挙のやりかた、雰囲気がだいぶ異なるので興味深かった。香川のほうが熱く、濃い。ヤバい人も出てくる。 隣に住んでいる人が誰かも分からない都会と、町内の人たちの家族関係や職業・勤務先まで分かっている地方とでは、人間関係の濃淡がまるで違う。誰が誰を応援しているかも、互いに知っている。多分、全国では香川1区のような構造の選挙区のほうが多い。自民党を倒すのがいかに至難かも分かる。 小川陣営のボランティアのスタッフが「選挙運動は面白い」と言っていたが、そのとおりで、選挙運動というのは、やってみると面白い。そういう選挙の面白さも伝わる映画だ。 選挙期間中にやれることは法律でかなり細かく制限されている。街宣車での遊説、街頭や集会場での演説会、電話かけ、選挙はがき、ビラまき――そんなことしかできない。期間も限られている。自民党の場合は、そういう表の選挙とは別に、裏の活動もあると思われるが、裏だけあって、その実態は分からない。それでも、この映画は自民党型選挙の闇の部分も垣間見せてくれる。 そういう選挙の実態というか現実が、当然ながらリアル。政治家を主人公にしたテレビドラマや映画を観たときの、「こんなのありえない」「こんなことしない」といった違和感は、この映画にはなかった。「ウソ」のない映画だ。 欲を言えば、選挙にいくらかかるのか、収支報告まで出してもらいたかった。

21/12/31(金)

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