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日本美術、西洋美術をバランス重視で

木谷 節子

アートライター

生誕110年 香月泰男展

太平洋戦争やシベリア抑留の体験を描いた「シベリア・シリーズ」で知られる香月泰男の、生誕110年を記念して開催中の展覧会。 その全貌を前・後期に分けて紹介する大回顧展とあって、初期の作品を数多く観ることができたのもうれしいが、やはり深い感動を覚えるのは、本人の解説文とともに対峙するシベリア抑留の記憶である。 ある日突然貨車に乗せられて行き着いた極寒の地で、いつ終わるとも知れない強制労働に従事する過酷な日々。 「方解末(ほうかいまつ)」という日本画の画材を油絵の具に混ぜてつくられたざらざらとしたテクスチャーに、ほぼ黄土色と黒だけを使ったモノトーンの世界、そしてヨーロッパ中世のキリスト教彫刻にも似た日本兵の顔など、過去何度も観ている作品のはずなのに新たに胸に迫ってくる。 と同時に、シベリア抑留という一生かけても描き尽くせぬテーマを持つということは、芸術家にとって恩恵なのか? 呪縛なのか? そんなことも考えた。

22/2/16(水)

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