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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

たぶん悪魔が

ロベール・ブレッソン作品の中でも『たぶん悪魔が』は、どちらかと言えば不幸な映画に挙げられよう。日本でも、今回同時に公開される『湖のランスロ』と並んで長い間「どうしても見られない幻のブレッソン映画」だった。随分昔のことだが、筆者もパリに赴いた際、郊外にある大学の教室で行われた自主上映をわざわざ観に行くほどだった。 主人公シャルルの抱く厭世的な虚無感が、物語としての映画を支配しているのは確かだが、むしろ見逃すことはできないのはその画面にまとわりつく艶やかさである。カラー映画になった後期ブレッソン映画を特徴づけるのは、静けさの中に何かが息づくような夜のシーンだ。名手ピエール・ロムによる『白夜』の淡いネオンの美もそうだが、その先をゆくのがパスクァリーノ・デ・サンティスの撮影による『たぶん悪魔が』だろう。 監督の意図を深く汲んで作品のルックを編み出してゆくデ・サンティスは、例えばヴィスコンティの『ベニスに死す』ではじっとりと湿度の高い画調を生み出したが、ここではブレッソン流の唯物的なショット作り(衝撃的なバス車内のショットが忘れ難い)の中に、夜の闇が持つ官能を忍び込ませている。同じ頃、ヴィム・ヴェンダースが撮影監督ロビー・ミューラーを得て魅惑的な夜の街を表現したように、この映画にも「パスクァリーノ・デ・サンティスの夜」がある。今回の復元版がどこまでの達成を見せているのか、楽しみだ。

22/2/22(火)

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