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水先案内人のおすすめ

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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介

佐々木 俊尚

フリージャーナリスト、作家

英雄の証明

イランでは、借金の未払いなどで訴えられ有罪になると収監される法律があるのだという。主人公は知人からの借金を返すことができずに服役している囚人。その彼が、刑務所から数日間の休暇(そんな制度もあるのね)をもらって実家に戻ってくるところから物語はスタートする。 主人公の婚約者が偶然にも17枚の金貨が入ったバッグの落とし物を拾い、これを元手に借金の返済の交渉をしようとするが失敗。だんだんと罪悪感に迫られて、落とし主に返すことにする。その善行が広まって、テレビの取材も入り、一転して「正直者の囚人」として有名人に。 ところがここからの展開が、酷くて悲しくてつらい。その変化を、アスガル・ファルハーディー監督はていねいに積み重ねるように追っていく。ファルハーディーは心の揺れ動きを描いて『彼女が消えた浜辺』など傑作が多く、その心の揺れ方がまるで日本人のマインドのようで、彼の作品を観るたびに「ああ、イラン人って日本人と共通する心情があるなあ」としみじみ思う。 それにしてもこの作品、怒り憤激して他者を攻撃している人がやたらとSNSで目立つ現代を見事に浮かび上がらせてもいる。誰かを吊し上げ、弾劾し、職を奪うのは当然と思っている人たちにこそ観てほしい。それは人生に取り返しのつかない事態を招くことを。

22/3/6(日)

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