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アニメも含め時代を象徴する映画を紹介
堀 晃和
ライター(元産経新聞)、編集者
ナイトメア・アリー
22/3/25(金)
TOHOシネマズ日比谷
「IPA」は英国発祥のビールの種類だ。日本でおなじみのラガーとは味わいが異なり、香りや苦みが強め。アルコール度数も高めのものが多い。中でも人気のニューイングランドタイプは果実感が強く、苦みや度数がそれほど気にならない。ぐいぐい飲んでいると、後で想像以上に効いてくる。 ギレルモ・デル・トロ監督の新作を観終わって、このIPAが頭に浮かんだ。幻想的な雰囲気を楽しんでいると、終盤には現実を突きつけられ、人生の重みがのしかかる。「甘さ」との対比で後の「苦さ」が引き立つ演出。IPAのように臓腑に沁みた。 舞台は20世紀前半。流れ者のスタン(ブラッドリー・クーパー)は各地を回るカーニバルの一座に誘われ、読心術のコツをつかむ。恋仲になった一座の女性と街に出て読心術のショーで人気者になるが、精神科医のリリス(ケイト・ブランシェット)と出会ったことで運命の歯車が軋み出す。 ナイトメア(悪夢)のような妖しい暗さを基調にした繊細な映像にも強く惹かれた。雨天や夜などの微かな光の美しさが際立っている。3月28日(日本時間)発表の第94回米アカデミー賞では作品賞や撮影賞など4部門にノミネート。撮影監督ダン・ローストセンの受賞に期待したい。
22/3/12(土)