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ホラー、動物モノ、トンデモ映画を発掘

春錵 かつら

映画ライタ―

ニトラム/NITRAM

計り知れない劣等感と静かに蝕む混乱が、彼の“中”を支配する。 1996年、オーストラリアで起きた無差別銃乱射事件。本作は35人の命が犠牲となった「ポートアーサー事件」の犯人、マーティン・ブライアントが犯行に至る当日までのわずかな日々を描いている。タイトルの「ニトラム」は逆から読んだ彼の名であり、かつて呼ばれた蔑称だ。 多くの観客はやがてその青年が引き起こす凄惨な出来事を知っているため、彼の何気ない日々の随所にザワザワし、煩い、憂える。彼の日常に散らばる数多の分岐点を目にする毎に「今、こうしてたら」「この時、こう言われていたら」と、“事件が起こらなかった未来”を想っては悔やむ。 事件は当初より動機が不明瞭とされていたが、確かにどの資料を読んでもそこには悦楽も悲しみも憤怒もなければ、メッセージもそして衝動すらもない。本作を通して感じるのは、その“不明瞭”は、スプリー・キラーという仮面を外した彼の内側そのものなのかも知れないという糸口だ。 青年の中に在る混乱は、いつも発露の機会を窺っている。それは人間にとっては得体の知れない怪物のようなもので、他者に理解されることを、きっと求めていない。

22/3/20(日)

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