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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

親愛なる同志たちへ

『貴族の巣』(1970)、『暴走機関車』(85)、『映写技師は見ていた』(91)などの秀作・佳作で日本でも広く知られるロシアの世界的巨匠アンドレイ・コンチャロフスキー。弟は『戦火のナージャ』(2010)のニキータ・ミハルコフ、兄弟監督としても著名だ。そのコンチャロフスキーが84歳で発表した本作は、冷戦下の1962年にソ連の地方都市で実際に起こった民衆弾圧虐殺事件を正面から描いた衝撃的な歴史映画だ。 1962年6月1日、ソ連南部、ウクライナの国境近くのノボチェルカッスクの機関車工場で大規模なストライキが発生した。生活に困窮した労働者たちが抗議の声を上げたのだ。危機感を抱いたフルシチョフ政権がスト鎮静化のために現地へ派遣した高官は、話し合いもせぬまま無差別銃撃で弾圧を始める。広場がすさまじいパニックに陥る中、熱心な共産党員として長らく国家に忠誠を誓ってきたリューダ(ユリア・ビソツカヤ)は、家に戻らない18歳の愛娘の行方を捜して奔走するが……。 約5000人のデモ隊が占拠した広場に銃声が鳴り響く阿鼻叫喚の虐殺シーンでは、その圧倒的なスケールと緊迫感に息を詰めた。その光景は、まるで現在のウクライナではないか。ソ連崩壊後の1992年まで30年間、国家に隠蔽されてきた歴史の真実に迫ることによって、現代の不穏な世界情勢をあぶり出したコンチャロフスキーの、優れた歴史映画でありサスペンス映画だ。

22/3/24(木)

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