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水先案内人のおすすめ

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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

ニトラム/NITRAM

事件を再現するだけでは映画ではない。 もう二度と悲劇を起こさないためにも客観的な視点から観客ができることを考えさせ、何故、加害者が犯行に至ったのかを知るためにも感情の変化を描くことに意味がある。 それにはドラマティックな描写も必要がないし、エキセントリックな会話も必要ない。 冒頭、火遊びをして火傷を負ってもまた花火をすると言う子どもの映像が映し出され、その後、花火を手に無邪気に遊ぶ大きな身体の青年の姿を虚ろな瞳で見つめる痩せ細った母親をカメラは捉える。 主人公は発達障がいなのか? それを決めつけるような描き方もせず、現実の世界でどうしても社会に馴染めない主人公の葛藤する表情を、こっそりと覗き込むようにカメラが捉えていく。そして母親と父親の対応からこの家族の関係性と、彼らが何処にでもいる親であることを私たちに理解させ、何がきっかけで息子が犯罪者になってしまったのかを共に考察する状況を作り上げていく。 ここまで余計なセリフや描写を省いて洗練された脚本を書き上げたのは、本作の監督ジャスティン・カーゼルと、『スノータウン』『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』を生み出してきたショーン・グラント。 そして主人公ニトラムを演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズの内に秘めた悪魔と戦うように苦しみもがく表情に圧倒される。いや、全ての俳優が恐ろしいほど上手い。しばらくは頭から離れない映画に出会ってしまった。

22/3/24(木)

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