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文学、ジャズ…知的映画セレクション

高崎 俊夫

フリー編集者、映画評論家

ふたつの部屋、ふたりの暮らし

セクシュアリティが揺らいでいる時代をまるごと映し出すように、近年、LGBTQ+をテーマにした作品が目白押しだが、『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』は、ことさら声高なメッセージや先鋭的な問題提起を投げかけるのではなく、年老いたふたりの女性のひそやかな愛の行方を繊細極まりないタッチで描き出す。 南仏のアパルトマンの最上階に住むニナ(バルバラ・スコヴァ)とマドレーヌ(マルティーヌ・シュヴァリエ)は表向きは親しい隣人同士だが、深く愛し合っている。ふたりはアパルトマンを売り払い、ローマに引っ越して一緒に住むことを約しているが、娘と息子がいるマドレーヌは言い出す勇気がない。それをニナに激しく叱責されると、マドレーヌは意気阻喪の果てに脳卒中となり、発話ができなくなってしまう。表面的には平穏だったふたりの日常が外部に立ちはだかる様々な障壁によって脅かされ、崩壊に瀕するのだ。 脚本・監督のフィリッポ・メネゲッティは、この一見、特異なモチーフを、時にはヒッチコックを思わせる手に汗握るサスペンス映画のように、時には老練な名匠が手がけるメロドラマのようにあざやかに切り取ってみせる。とてもデビュー作とは思えない堂々たる演出、画面造型には驚かされる。 畸形的なメロドラマで知られる鬼才ファスヴィンダーのヒロインだったバルバラ・スコヴァは強烈な意志を漲らせ、大胆不敵な行動に出る。一方で、マルティーヌ・シュヴァリエは時おり、童女のようなイノセントで傷つきやすい表情を垣間見せ、魅了される。ふたりのダンスシーンで流れる、日本でもザ・ピーナッツが歌ってヒットした「愛のシャリオ」の甘い旋律が、どこか親密なノスタルジアを搔き立てずにはおかない。あくまで、ふたりの対照的な佇まいが、この映画にこの上ない品位と静謐な格調をあたえているのである。

22/3/30(水)

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