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夏目 深雪
著述・編集業
チロンヌプカムイ イオマンテ
22/4/30(土)
ポレポレ東中野
チロンヌプはアイヌ語でキタキツネのこと、カムイは神のこと、イオマンテは霊送りのこと。1986年、北海道屈斜路コタンで、大正時代に行われてから75年ぶりにアイヌ民族のこの祭祀が行われた。映画はその記録である。狩猟民であるアイヌの伝統的な考えでは、生き物は自らの肉や毛皮を土産にして、神の国から人間の国へやってくる。それを受け取ったアイヌは、お返しに我が子のように育てた動物の霊魂を、その父母のいる神の国へと送る。歌や踊りで喜ばせ、御礼の品をどっさり背負わせて……。 要はキタキツネを殺す儀式なのだが、大勢の民族衣装を纏ったアイヌの方々がカムイノミ(祈詞)、ウポポ(歌)、リムセ(踊り)などで、一匹のキタキツネのために時間をかける様は荘厳。「どんなものにも命が宿っている」と考えるアニミズムが極北で息づいているのを目の当たりにするのも感動的だ。35年ぶりに儀式が行われた場を訪ねると、子孫たちは離散し、もう祭祀を行えるものは誰もいない。構成も秀逸で、美しい夢を見たような気分になれる。
22/4/16(土)