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日本で上映されるアジア映画はおまかせ

紀平 重成

コラムニスト(元毎日新聞記者)

チロンヌプカムイ イオマンテ

いや、これは滅多に観ることができないアイヌについてのドキュメンタリー作品です。キタキツネの子供を我が子のように育て、それを丁寧に屠(ほふ)る「カムイ(神)の世界にいる両親の元に送り返す「霊送り」の一部始終を記録した映像だからです。民俗学的に価値が高いと思われるのは1986年に行われた祭祀そのものが75年ぶりであり、儀式に直接参加したり生で見た世代も高齢化して再現が難しいと思われること。また祭祀伝承者の日川善次郎エカシ(故人、行事の行われた当時75歳)をはじめとする関係者へのインタビューも充実し、アイヌの精神文化が興味深く紹介されていきます。 狩猟民だったアイヌの伝統的な考えは、キタキツネやヒグマといった生き物は自らの肉や毛皮を土産にして、神の国から人間の国へやってくるというものです。人間に育てられ歌や踊りで霊送りされると、人間の国の様子を神の国の父母たちに語り聞かせ大いにうらやましがらせます。それを聞いた仲間は人間の国に行きたくなり、まるで循環通路をめぐるように行き来し次の世代に受け継がれてきたというわけです。映画のチラシに使われているキタキツネと祭祀伝承者の日川さんを並べた写真がすばらしいです。 北村皆雄監督は差別や同化問題にも触れていますが、繰り返し強調しているのはアイヌの精神文化の豊饒さです。とりわけ人間にとって生き物は神の国からやってくる大事な存在だとする考え方からは必要以上の乱獲はあり得ません。アイヌは広い意味での平和主義者であり動植物との共生の大切さを知っています。アイヌの暮らし方からは人間同士の殺傷や資源の浪費で右往左往する現代人が学ぶことは多いと言えるでしょう。 ※タイトル「チロンヌプ」の「プ」は小文字が正式表記

22/4/24(日)

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