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水先案内人のおすすめ

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小劇場中心。今後が期待される劇団を発掘

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

小松台東『シャンドレ』

この水先案内人で何度か書かせていただいたが、最近は、『コロナ禍で中止を余儀なくされた舞台が、関係者の熱意のもと、時を経て上演に至った』公演を拝見することが多い。もちろん、強く打ち出しているか、極力秘めようとしているかの違いはあるものの、チラシに書かれた宣伝文や、当日パンフレットに書かれた挨拶文、そして時には芝居中のセリフなどから、「絶対にこの舞台に、日の目を見させてやりたい」という、関係者の強い想いを受け止めることも少なくない。その気概が育んだ胆力が、いつしか自然に身につけた演劇の筋力となっていくと信じたいし、私自身、微力ながらも、ひとつひとつ、演劇の縁の下を支えていきたいと誓う日々である。 小松台東の『シャンドレ』もまた、コロナ禍の影響をまともに受けた舞台のひとつである。初演は2020年11月、こまばアゴラ劇場であった。世の中の全てのクリエーションがそうであるように、演劇公演もまた、一朝一夕には立ち上がらない。2020年2月頃から喧しく(かまびすしく)なってきたコロナ禍は、3月以降一気に影響を及ぼし、ホールは臨時休館へと追い込まれていった。11月公演にとって、キャスティング・チラシ作り・宣伝・脚本作りといった一番大事な時期に、コロナ禍が大きく横たわっていったのである。苦渋に次ぐ苦渋を飲まざるを得なかった小松台東は、すでに出演依頼していた客演の役者の人たちに頭を下げ、総勢10人の芝居から、劇団員だけの3人芝居で公演に臨むことを決断する。稽古場の密を極力減らし、できるだけクラスターの発生しにくい状況での稽古を試み、万が一中止になった場合にも、劇団員だけならば、迷惑の掛かり方が最小限に抑えられるのではという思いからの決断であった。当初のキャスティングには女性も含まれており、スナック「シャンドレ」のママを物語の中心に据えるはずだった設定も大幅に変更し、男優3人だけの『シャンドレ』の執筆が始まっていく。  その公演が素晴らしかった。 苦しい状況の中でも、なんとしても成立させるのだという思いが導いた豊かなアイデアが、幾重にも演劇的興奮を導いていき、千穐楽まで絶対に走り抜きたいという劇団全体の祈りが、舞台上に未曾有の緊張感を生み出していた。 作・演出であり、出演もしている主宰、松本哲也の稽古場代役として参加していた森崎健康も、いつしか重要なピースとして出演することとなり、結果4人芝居として生み出された『シャンドレ』。 コロナ禍において懸命に上演の道を探り、感染症対策に極限まで気を遣いながら産み落とされた、奇跡のような舞台の再演を、ぜひ、目にして欲しい。

22/5/8(日)

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