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監督、俳優…新しい日本の才能に注目(2018年6月〜2022年12月まで担当)

野村 正昭

映画評論家

冬薔薇

「冬薔薇」と書いて、「ふゆそうび」と読むと、初めて知った。一般的に、薔薇の開花時期は5月~6月と言われていて、わが家の近所にあるローズガーデンは、今が満開の状態で、色とりどりの美しい薔薇が咲きほこっている。冬薔薇は寒い冬の中、屋外でぽつんと花を咲かせるとか。それが、この映画の存在を象徴している。 阪本順治監督は「伊藤健太郎を主演に1本撮ってみないか」とオファーされ、数時間かけて、彼の生い立ち、家族や友人との関係、仕事観などを聞き、順風満帆だった役者人生を暗転させた過ちと、その後の人生を、この映画の主人公・淳に反映させ、アテ書きしたという。その結果として、横須賀を舞台に、淳をめぐる人々をも描いた独特の世界をリアルに創造した。結末を含めて、決して安易な青春映画ではない。「ふゆそうび」としか言いようがない、人の生き方を真摯に見つめる映画が、こうして生まれたのだ。

22/5/23(月)

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