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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

戦争と女の顔

本作の監督であるカンテミール・バラーゴフからの、ロシアのウクライナ侵攻についてのメッセージをまず最初に紹介したい。ちなみにバラーゴフ監督は、ロシアのカバルダ・バルカル共和国出身で現在は国外へ脱出しているという。 「戦争と、それを招いたロシア政府の政治的決断に強く反対している。だから私はロシアを去らなければならないと感じた。この戦争は、ただ普通に人生を送りたい何百万という人々にとっての悲劇だ。彼らの多くにとっては、この戦争を乗り越えること、これからの人生を送ることが難しくなるかもしれない。これは、『戦争と女の顔』で描かれていることと一緒だ。戦争より悪は存在しない。」  (カンテミール・バラーゴフ) 「戦争より悪は存在しない」という監督のメッセージがこめられた本作は、ベラルーシのノーベル賞作家 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)を原案にしている。“独ソ戦”に従軍した女性兵士たちに聞き書きした“証言文学”で、彼女にノーベル賞をもたらした名著と言われている。 第2次世界大戦に女性兵士として従軍し、終戦直後の1945年、荒廃したレニングラード (現サンクトペテルブルク)の病院で、看護師として働いているイーヤ。彼女の戦友でもあり同様に心に大きな傷を抱えているマーシャ。心身ともに傷だらけのふたりの元女性兵士の過酷な運命を描いた本作は、第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門で監督賞と国際批評家連盟賞を受賞した問題作だ。 『脱走特急』『レニングラード攻防戦』などの戦争映画で多く描かれてきたレニングラードだが、終戦時の都市生活の描写は極めて珍しい。戦争で破壊された都市とふたりの女性が、明日を語り抱擁するラストシーン。戦後のウクライナの女性たちを重ねて観たい“女性映画”だ。

22/5/24(火)

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