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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介
佐々木 俊尚
フリージャーナリスト、作家
ナワリヌイ
22/6/17(金)
新宿ピカデリー
これはきわめて衝撃的かつ感情にあふれたドキュメンタリーである。主人公は、ロシアのカリスマ的な野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ。プーチン批判の政治活動をおこなってきた彼は2020年、シベリアからモスクワに戻る旅客機のなかで毒物を盛られ、意識不明の重体となる。命は取り留めたが、2021年にはロシア当局に拘束収監され、そしてウクライナ侵攻のさなかの今年3月、懲役9年の計が言い渡されている。 本作は証言を積み重ねて真実に迫っていく……という従来型の記録映画手法ではなく、リアルタイムの迫真性を打ち出した最近のドキュメンタリーのスタイルをとっている。毒物事件の直後からナワリヌイとその家族に密着し、リアルタイムのライブ映像のようにして彼らの活動を追いかけていくのだ。なかでももっとも刺激的なのは、誰が毒物を盛り、暗殺を命じたのかをイギリスの調査報道機関ベリングキャットのメンバーとともに追い詰めていく場面。ベリングキャットはインターネットの公開情報を活用しさまざまな事実を暴き出す活動で知られ、本作でも「そんなことまでネットでわかるのか!」という驚きとともに暗殺計画のベールが剥がされていく。そして核心のシーンでは、なんとナワリヌイ本人が暗殺実行犯メンバーに直接電話をかけて確認するというところまで撮影されているのだ! ウクライナ侵攻でロシアの“裏側”に注目が集まっている今こそ、観るべき作品であるのは間違いない。
22/5/28(土)