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アニメも含め時代を象徴する映画を紹介
堀 晃和
ライター(元産経新聞)、編集者
峠 最後のサムライ
22/6/17(金)
丸の内ピカデリー
作家の司馬遼太郎は『竜馬がゆく』などいくつかの長編小説に、執筆後の余韻を味わうような“熱い”あとがきを付けている。幕末に生きた越後長岡藩の家老、河井継之助(つぎのすけ)を描く『峠』にもそれはある。司馬はこう書いた。「私はこの『峠』において、侍とはなにかということを考えてみたかった」。映画化された『峠 最後のサムライ』も、「侍とはなにか」を観る者に問いかけ、司馬があとがきで触れたように「『いかに美しく生きるか』という武士道倫理的なもの」が日本を代表する俳優陣によって可視化されている。切なく、美しい作品だ。 戊辰戦争で西軍が越後にも迫っていた。戦火を避けたいという継之助の願いもむなしく、長岡藩は武器を取り、敗北する。 人物の距離、位置関係を強く意識させる小泉堯史監督の演出が、画面に緊張感を与え、時に弛緩させる。最もゾクゾクしたのが、継之助役の役所広司が城内で、前藩主の仲代達矢と藩の行く末について言葉を交わすシーン。表情、声、仕草が端正な切り返しのショットで描写され、ひとつひとつの所作から当時の世情や心情が伝わってくる。大俳優2人の演技に圧倒された。 コロナ禍で公開が2年遅れた。待ったかいがあった。
22/6/12(日)