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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

国立劇場 令和4年7月歌舞伎鑑賞教室『紅葉狩』

同じ歌舞伎の演目でも舞踊となると「物語があまりなくてわかりにくい」「どこを観ればいいのかどう楽しめばいいのかわからない」という声をよく聞く。7月国立劇場で上演される『紅葉狩』も歌舞伎舞踊の中でも大曲中の大曲。だが、何の前知識がなくてもとても分かりやすくて楽しめる。だからこそ、初めて歌舞伎を見る人向けの鑑賞教室の演目に選ばれている。 紅葉色づく信州戸隠の山。そこへやってきた平維茂と従者たちは、紅葉狩に興じる更科姫の一行に出会う。勧められて酒をのみ、更科姫や侍女たちが次々に美しい舞を披露。酒に酔った維茂や従者たちがうたた寝するのをみはからったように、姫たちは姿を消す。 そこへ戸隠山の山神が現れ、この山に棲む鬼女の恐ろしさを告げようとする。だが維茂を揺さぶったり足音を鳴らして起こそうとするが、なかなか目を覚まさない。やがてその山神も去り、いよいよ怖ろしい鬼女が正体を顕す。激しい立廻りの末、維茂は名刀・小烏丸で鬼女を退治するのだった。 まず全山紅葉に色づく舞台に目を奪われ、そこで行われる酒宴がまた華やかだ。更科姫の若い侍女による可憐な踊り、維茂の従者たちのどこかすっとぼけたようなユーモラスな踊り。そして見た目は愛らしいのにどこかこの世の物ではない雰囲気の山神の踊りがひときわユニークだ。花道を風のように跳んできたかと思うとまた風のように跳び去っていき、時折見せる超絶技巧とでもいいたくなるような振りに必ず手がくる(拍手が起こる)。そして極め付けは、踊りの名手と謳われた九代目市川團十郎が自ら振付けたという更科姫の舞だ。品位ある優美な振りの中にも二枚の扇を巧みにあやつるテクニカルな側面が楽しい。そして時折覗く鬼女の本性など見どころがたくさん。踊りながらも維茂や従者たちの様子を盗み見する瞬間も凄まじい。後半は衣裳もぶっ返り、怖ろしい形相となった鬼女と維茂とのダイナミックな立廻りに息を呑む。 音楽も豪華だ。長唄、常磐津、竹本という三種類の歌舞伎音楽が舞台の上手・下手・正面で掛け合う、まるで立体音響。三種類の音楽の、歌い方、語り方、曲の調子や雰囲気など違いを感じることができるはず。 武勇に優れた平維茂を勤めるのは尾上松緑、そして更科姫実ハ戸隠山の鬼女を中村梅枝が初役で勤める。お芝居の前に解説「歌舞伎のみかた」も。 社会人のための歌舞伎鑑賞教室、親子で楽しむ歌舞伎教室などの日程も設けられている。

22/6/22(水)

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