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水先案内人のおすすめ

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ユニークな選択眼!

春日 太一

映画史・時代劇研究家

アトランティス

ロシアとの戦争後のウクライナが描かれた、近未来的な作品。 戦後のPTSDに苦しみ、仕事を失い、戦死者の回収に従事する主人公の姿が描かれる。 物語に、そう動きはない。 ただ、主人公を通じて淡々と映し出される景色の数々が、ウクライナの置かれた絶望を我々に伝えてくる。 鉄工所、軍用車両、スチール製の机といったゴツゴツした金属たちに取り巻かれた煤けた無機質な質感が、雪でぬかるんだ地面や灰色の曇天といった背景と合わさり、ひたすら重々しい空気をもたらしている。 荒野に作られた広大な墓地。無造作に置かれた無数の献花だけが色をつける。 終盤、あるシーンを契機に画面は温かみを宿すことになる。その伝え方は、ひとつは炎。そして、もうひとつは…。既に作品のキービジュアルとして宣伝にも使われているが、あえて触れないでおきたい。生命が熱を帯びることの素晴らしさを端的に訴えかけてくる演出だった。 未来への希望を祈念する想いが真っ直ぐに伝わってくる。 ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督作品は『リフレクション』も公開中。こちらは2014年のクリミア侵攻に巻き込まれたウクライナ人医師の地獄の日々が描かれる。 どちらの作品も、かなり重い。 もちろん映画を観て“現実”を知った気になるのは危険だ。ただ、ウクライナ人がロシアの侵攻をどう捉えているのかを知る上で、重要な2本であることには違いない。 映画としての見応えも十分なので、この機会にぜひ観てほしい。

22/7/1(金)

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