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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
プアン/友だちと呼ばせて
22/8/5(金)
新宿武蔵野館
限られた時間の中で、“やり残し”と“やり直し”を選べるとしたら人はどちらを選択するのだろうか? 例えば映画なら、『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』のように“やり直し”を描くことで違う未来が生まれる驚きを描くと、ロマンチックなものへと発展しやすい。 例えば『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のように“やり残し”を描いたら、彼らの心にじっくり浸りながらロードムービーを味わうだろう。 本作はこのふたつを見事に融合させながら、とびきりロマンチックに過去を通して未来と向き合っていく男ふたりの心を映し出した映画だった。しかも元恋人と再会していく物語は、現実逃避のようにも見える恋の塗り替えと未来への冒険が満載で、一見恥ずかしくなる演出もスローモーションを使い、これでもかというほどファンタスティック。 そこだけでウォン・カーウァイが製作総指揮という肩書きに納得してしまうのだけど、とにかくカセットテープごとに一章ずつの役割だったり、恋人をイメージしたカクテルを作ったりとアイデアが粋なのだ。 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』でも感じた、沢山の個性的な登場人物のパズルをはめていくような脚本を書くバズ(ナタウット)・プーンピリヤ監督の、さらなる開花を感じずにはいられない作品。
22/7/28(木)