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吉田 伊知郎
1978年生まれ 映画評論家
ピンク映画60周年特集
22/8/26(金)~22/9/1(木)
『生首情痴事件』(8/27、29、31) 上野オークラ「ピンク映画60周年特集」(8/26〜9/1)で上映 夏だから怪談というのも安易だが、〈ピンク映画×怪談映画〉という奇抜な上映はいかがだろうか。 上野オークラでは「ピンク映画60周年記念」と冠して、3週にわたって今昔のピンク映画を3本立てで上映する。第1週(8/27、29、31)は、「怪談今昔」。注目は1967年の『生首情痴事件』。 資産家の女性と結婚した夫が、愛人を囲いながら妻の財産横領を狙っている。夫は妻を精神的に追いつめ、睡眠薬で昏睡させる。そして愛人と共に妻を線路に運び、鉄道自殺を装って殺害。警察も自殺と判断するが、轢断死体から首だけが見つからない。そして資産を乗っ取った夫と愛人のもとで奇妙な出来事が相次ぐ。 さして目新しい物語ではないが、夫に殺されるのではないかという妻の疑念を丁寧に描いた小川欽也監督(今年米寿を迎える現役監督!)の演出が冴え渡り、アルフレッド・ヒッチコックの『断崖』を思わせる心理描写が魅せる。 怪奇映画としても申し分ない恐怖演出と、チープにならざるを得ない場面が混在するところはご愛嬌だが、列車に轢断された妻の死体から首がもげて堤防を転がっていくカットなど、何の計算もなく無造作に撮られているかのように見えることから、その現場に不意に遭遇したかのような生々しさを味わえてしまう。 初期のピンク映画の多くは、保存状態がよろしくなく、本作も不鮮明な部分があるパートカラー(一部のみカラーになる)だが、それゆえに廊下の装飾が揺れたりする何気ないカットや、妙なものが一瞬見えたような気がする気味悪さも、今、こうした映画を観る魅力になっている。 上野オークラの直ぐ隣は不忍池である。映画がはねたあとは、ひとけも少なくなった夜の不忍池を散歩してはどうだろうか。柳の下に奇妙なものが立っているのが見えるかもしれない。
22/8/27(土)