アイスランドの山間部。牧場を営むマリアとイングヴァル夫妻は、いつものように羊の出産に立ち会うが……。オープニングから寒々しい空と厳しい自然、誕生前夜の羊達の不安げな様子と全編ただならぬ雰囲気が漂う。それでもアダが生まれてからは、牧歌的な生活風景が描かれる。衝撃的な正体が、明かされてもその描写は変わらず、むしろ可愛らしささえ芽生える。たとえ他人が入りこんでも変わらず、トラクターで作業したり、テレビでスポーツ観戦したりと淡々と時が過ぎて行く。また、妻のマリアという名前や羊小屋での誕生も宗教的なものを連想させる。下手するとコメディにもなりかねない設定をちょっと怖いお伽噺にまで昇華させたのは、北欧の独特の気候と土地柄か。ホラー？ミステリー？ファンタジー？カテゴリーを分けるには難しい不思議な映画である。

22/9/17(土)