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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

RRR

サタジット・レイ監督作品以外のインド映画が殆ど知られていなかった1994年、ニューデリーの映画館に入ったことがある。どんな映画を観たかは忘れたが、観客が飲み食い歌い踊る、異様な館内光景は今でも脳裡に焼きつき、映画の見方が少し変わったような気がした。それから幾星霜、『バーフバリ』『ムトゥ 踊るマハラジャ』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』『きっと、うまくいく』『パッドマン 5億人の女性を救った男』など数えきれない、様々なタイプのインド映画を楽しんできた。 そして待望の、待ち焦がれていた、『RRR』。奇妙なタイトルだが、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字、もうひとつには監督のS・S・ラージャマウリとW主演のN・T・ラーマ・ラオ・Jrとラーム・チャランの名前から採られたという珍説もある。 それはともかく、予想をはるかに超える雄大なスケール、お話の面白さ、魅力的なキャラクターは、今まで見てきたインド映画を凌ぐ素晴らしさ、これぞインド映画ならではの大娯楽映画(アメリカでは『トップガン』よりも面白いと大騒ぎされている、と町山智浩はラジオ番組で語っていた)と喧伝したくなる傑作になっている。 舞台は1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビームと、大義のため英国政府の警察となったラーマ。敵対する立場にあったふたりは運命に導かれるように出会い、無二の親友となるが……男の友情と使命がぶつかり合う様を豪快に描くアクションエンタテインメント。主演ふたりのアクション演技が凄いのはもちろんだが、度肝を抜かれるのはトラ、ヒョウ、シカなどありとあらゆる動物たちが一斉に飛び出してくる大乱闘シーン。ブットンデルというか常識外れというか、あまりの凄まじさに言葉を失う。 戦争、テロ、コロナ禍、異常気象など真っ暗闇な世情にウンザリしている方々に是非おススメしたい。気分爽快になること間違いないからだ。

22/10/23(日)

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