インド伝統音楽で演奏される打楽器、両面太鼓のムリダンガム。その奏者になりたいと願った青年が、カーストによる差別など、さまざまな困難を情熱で乗り越えていくさまを、心に響く太鼓のリズムとともに描き出す青春音楽映画。極上の音楽に躍動感あふれる映像。インド映画ならではのお楽しみがたっぷり詰まっているのだが、それだけでの作品ではない。人にも文化にも貴賤なし、誰かが引いた境界線を溶かしてしまえば世界はもっと美しく広がるということを、実証してみせる映画なのだ。インド映画ならではのど派手なダンスナンバーの幸福感、超絶技巧をもって演奏される古典音楽のすごみ。監督のラージーヴ・メーナンと音楽監督Ａ・Ｒ・ラフマーンは、音楽の多彩なよろこびを観客に堪能させる。終盤、主人公は各地に伝わる伝統芸能の多種多様なリズムを吸収してムリダンガム奏者として成長していくのだが、そのハイブリッドな演奏と、本作を貫く自由な精神がぴたりと合致してパワフルに心を打ってくる。これぞマサラ。インド映画の「推し活」を展開する東京都荒川区のインド料理店「なんどり」がほれこんで配給に乗り出した一本でもある。

22/9/30(金)