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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー

ドキュメンタリーで人物に焦点を当てる場合は、その人物の美談を描くのではなく、“光”と“影”を見せることで立体的に人物像を浮かび上がらせることが大事だ。その点を踏まえて今作の主人公、ケヴィン・オークインを見てみると、彼がどれだけ人に求められ、人に見捨てられたのか、というテーマをもとに、生育環境を紐解いていく構成が素晴らしかった。だって数々のスーパーモデルやスターのメイクをした伝説のメイクアップ・アーティストの煌びやかな生活を描く裏で、どうして彼女・彼らが彼から離れていったのかという人間性に焦点を当てているのだから。 実質、面白い映画というのはひとえに“人間”を描いているかに限る。“成功法”なんて人それぞれであり、それと同じく、ケヴィンが出版したメイクアップ本を読めば、誰でもメイク上手になれるというわけではなく、その人の感性がその先の深みを生み出すのだ。 映画を観ると、ケヴィンの幼少期におけるゲイ差別から自己肯定感の低さが生まれ、承認欲求を人より求めるようになったのかもしれないし、彼自身が愛されること、人に求められることを欲したのも、“怒り”が根底にあったからなのではと推測してしまう。 映画は、“美”を愛したひとりのメイクアップ・アーティストを通して、“差別”することの愚かさと、“人”を大切にすることの意味を綴った人生哲学だった。そして70年代、80年代、90年代というメイクとファッションにおける激動の時代に、ブームを作った人間のエネルギーを多くの証言者により感じるパッションが溢れ出る人間ドラマだった。

22/10/16(日)

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