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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介

佐々木 俊尚

フリージャーナリスト、作家

ペルシャン・レッスン 戦場の教室

“いたたまれない映画”というランキングがあったら、史上最高のベスト1になるかも。ユダヤ人の若者が、ナチス強制収容所で生き延びるために「自分はペルシャ人だ」と名乗ったところ、あろうことかナチスの将校に「自分にペルシャ語を教えてほしい」と依頼されてしまう。もちろんペルシャ語なんて微塵も知らない。ばれないように必死でペルシャ語を捏造し、授業を重ねるごとに教えなければならない偽ペルシャ語単語もどんどん増えていく……というお話。 この設定だけを知ると、ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』のようなコメディタッチの映画を思い起こすが、実際にはまったく違う。シリアスに描かれているからこそ、その“いたたまれなさ”はますますいたたまれない。そしてラストに至り、主人公が大量に捏造していた偽単語の意味が浮かび上がってきて、すべての伏線が回収され、唐突の感動に言葉を失った。

22/10/30(日)

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