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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

ジョン・レノン~音楽で世界を変えた男の真実~

90分ほどのドキュメンタリー。ジョン・レノンの生涯全般ではなく、「ザ・ビートルズとして成功するまで」が描かれている。映画としては短いが、ものすごい情報量。 幼少期の環境、境遇、経験によって人格ができあがるというのが、テーマのようだ。 ジョンの生まれたリヴァプールという都市の成り立ち、彼の曽祖父がここへ流れ着くところから始まり、壮大なサーガの趣きがある。 レノン家は複雑な家庭である。家系図でもないと把握できない。とにかく、両親と何人かの兄弟姉妹という、一般的な家庭ではなかったことが、よく分かる。さらに、育ててくれた叔父、母と、親しい人が相次いで亡くなる。 ジョンには、繊細で内向的なイメージがあったが、少年時代はガキ大将タイプで、かなり暴力的だったのは意外。 ジョン自身が幼少期を振り返るインタビュー映像もあるが、それは短い。 大半は、ジョンの少年時代の友人、それはザ・ビートルズの前身のバンド、ザ・クオリーメンのメンバーでもあるのだが、彼らの証言が続く。 彼らは「ビートルズになれなかった男たち」なのだが、それへの屈折した思いは感じられない。あくまで少年時代の、ジョンとの楽しい思い出を、懐かしそうに語る。残念ながら、ポールの証言はない。 ジョンの同級生たちは、みな70代になっているが、元気そうだ。つまり、ジョンもあの事件がなければ、こうやって半世紀以上前のことを楽しそうに語っていたわけだ。 写真などを立体的に加工して当時を再現するのは、最近のドキュメンタリーのよくある手法だが、この映画でも、その技法が駆使されて、1950年代のリヴァプールの少年たちがいきいきと描かれる。

22/11/7(月)

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