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日本で上映されるアジア映画はおまかせ

紀平 重成

コラムニスト(元毎日新聞記者)

擬音 A FOLEY ARTIST

世の中には様々な仕事があります。でも映画の編集段階であとから入れる「擬音」(効果音)は作り手の知恵と意地が詰まった本物以上に「ホンモノ」に迫る作品。そこに温もりや愛着を感じないわけにはいきません。とりわけ台湾でこの道40年のフー・ディンイーはレジェンドとして扱われるほどの技術を持ち、彼にフォーカスした本作品はそのまま台湾映画史としても見ることができるドキュメンタリーです。 波の音や風の音などの効果音はしばしばバラエティ番組等で紹介されますからご存じの人もいるかもしれません?では骨が折れる音は? フーさんは監督の前でセロリを使って指がポキッと折れる音を再現したそうです。このように材料を用意しておけばいつでも使えます。ではご飯を食べるときの音は? ある日のこと、フーさんは前日の食べ残しが詰まった弁当を食べ始めました。臭いもするし見た目も腐っていそう。それでも一通り食べてから吐き出しました。歯がぶつかる音もシッカリ拾って、映画製作的には成功です。 「びっくりしました。やさしい人柄で台湾人の苦労に耐える精神も持っている。そういう忍耐力がこのシーンでよくわかりました」とワン監督はエピソードを紹介します。まさに「映画に命を吹き込む」人たちといえるでしょう。

22/11/10(木)

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