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演劇鑑賞年300本の目利き

大島 幸久

演劇ジャーナリスト

二兎社『歌わせたい男たち』

「沈黙の自由なんで、もうここにはないんですよ」。永井愛の作・演出『歌わせたい男たち』の公演チラシには、この強烈なキャッチコピーが踊っている。歌とは日本国歌「君が代」、男たちとは権力を内包する人々だろう。心の自由とは? そして忖度(そんたく)について問い掛ける作品だ。 永井には傑作『見よ、飛行機の高く飛べるを』がある。明治末期の女子師範学校で良妻賢母の教育に反対し、ストライキを決行する少女たちを主人公とした群像青春劇。時代こそ異なるが教育現場を舞台にしており、今作は現在進行形の主題だ。 物語は卒業式の朝、都立の高校の保健室で進む。登場人物は校長、養護教師、英語科教師、社会科教師、そして元シャンソン歌手で音楽教師の主人公ミチル。この5人がバトルになる。「君が代」の歌唱を強制する推進派、シャンソンの「聞かせてよ愛の言葉」をうたわせようとする反対派。この学校は前年、教師と卒業生の大半が国歌斉唱で不起立だった背景がある。 2005年の初演では多くの演劇賞を受賞した。2008年の再演を経て今回は14年ぶり3度目の公演である。配役はキムラ緑子が主人公ミチル、相島一之が校長、山中崇が社会科教師、大窪人衛が英語科教師、うらじぬのが養護教師。 “喜劇的批判精神”を下地に描く作家と言われる永井。ウエルメイドの喜劇を書かせたら天下一品。現代の演劇界を代表する劇作家の快作を見逃せない。

22/11/16(水)

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