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日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

宮松と山下

俳優は一度その役になってしまえば、専門的な技術が必要なボクサーにもピアニストにも瞬く間になれる。実際はそうではないけれど、昔、ある俳優さんとボウリングをする機会に恵まれ、その人がストライクを連発したときに漠然とそう思ったことがある。そのときのことを思い出した。 本作で香川照之が演じる主人公の宮松は、侍にもヤクザにもなる端役の俳優。だが、記憶がない。自分が誰だか分からない。何にでもなれる俳優をそんな記憶のない男が演じている。それが、この映画ならではの奇抜で面白いところだ。 よくよく考えると、私たちは役を演じている俳優の素顔も実際はほとんど知らない。テレビのバラエティやインタビューで見せる顔も見られることをある程度意識したものだし、普段何を考えているのかも分からない。では、役を演じている俳優自身が自分のことを知らなくて、徐々に記憶を取り戻していったらどうなるのか? そんな多重構造の実験的な展開に心がザワザワし、知らないうちに前のめりに。キャラの濃い役を演じることが多い香川照之が、自分を失くした宮松を演じるという捻れたキャスティングも映画をより深いものにしている。

22/11/18(金)

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