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平辻 哲也
映画ジャーナリスト
ケイコ 目を澄ませて
22/12/16(金)
ヒューマントラストシネマ有楽町
岸井ゆきのが演技達者なのは、分かっていたが、ここまでうまいとは! ボクシング映画であるから、肉体改造もしたのは間違いないが、驚くべきは顔つきの変化だ。かわいらしい笑顔を封印し、悩みながらもタフにボクシングに挑む難聴の主人公を演じきった。目を真っ直ぐに見つめ、音のない世界で生きることを体感しているように思えた。 映像もデジタルとは違った質感と思いきや、今ではほとんど使われていない16ミリフィルムを使っているとのこと。フィルム独特の質感で、難しいナイトシーンや暗い場面も撮りきっている。おそらく、一発勝負のフィルムでの撮影は出演者にもなんらかの刺激を与えているのだろう。全体的にドラマというよりも、ドキュメンタリーを見ているような気持ちになる。 さらに特筆すべきは音楽を使っていないこと。ドラマチックさを音に頼らず、劇中の音だけで見事に表現する。難聴者のケイコは目を澄ませるが、健常者の観客はしっかりと耳を澄ませて、この映画の世界を堪能すべし。三宅唱監督の恐るべき才能には称賛を送りたい。思わず拍手を送りたくなる傑作!見逃してはいけない。
22/12/1(木)