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日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

ケイコ 目を澄ませて

“視覚”と“聴覚”に訴える。三宅唱監督は数多いる若手監督の中でも、とりわけ映画のそのふたつの重要な特製にこだわった、映画の力を心から信じているクリエイターだと思う。 劇映画の前作『きみの鳥はうたえる』(18)でもそれを感じたが、ろう者の女性ボクサーを描いた本作ではそれがより際立っている。 カメラは聴覚障がいで両耳とも聞こえないケイコがロードワークをしたり、縄跳びをしたり、ミット打ちをする姿などを見つめ続け、彼女の息遣いや鼓動、ジムや街での環境音を、一切排除された劇伴に代わって響きわたらせる。 だから、私たちはいつも以上にケイコに扮した岸井ゆきのの表情の変化、一挙手一投足から目が離せなくなり、ケイコには聞こえない音をいつもよりも敏感に察知するようになるのだ。 さらに、完璧に計算され尽くした無駄のない(しかもカッコいい)映像からケイコの置かれた状況や環境、日々の生活から彼女の苦悩や迷い、葛藤といった多彩な情報を読み取ることに。 そんな目と耳に全神経を集中させる行為こそ、本来の楽しみ方でもある究極の映画体験。あることがきっかけで立ち止まったケイコが、次にどこに向かうのか? 顔を上げるときは来るのか? その瞬間をじっと待ち続ける豊かな時間を、映画館の暗闇の中で堪能して欲しい。

22/12/16(金)

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