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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

ヌーヴェル・ヴァーグ前夜

各国の名画座をそれほど知っているわけではないが、なんとも濃密なプログラムを次から次へと繰り出してくるシネマヴェーラ渋谷は、今や世界でも最強クラスの名画座ではないだろうか。その2022年の暮れから1月の上映企画は「ヌーヴェル・ヴァーグ前夜」。ヌーヴェル・ヴァーグは当時の台詞重視のフランス商業映画への批判から生まれたとよく言われるが、もちろんそれだけが契機ではない。この豪華なラインアップを見ると、ヌーヴェル・ヴァーグとはフランス古典映画の爛熟を目の当たりにした新しい世代が、その遺産に誠実であろうとした志の産物とも感じられてくる。 世紀末のウィーンを舞台に、恋のデカダンスが滑らかに回り続けるマックス・オフュルスの『輪舞』、若きジャック・ベッケルがパリのモード界で繰り広げられる恋の地獄を描き抜いた『偽れる装い』、愛憎入り混じる人間関係を押し流すように、二人だけの舞踏会という夢のようなクライマックスが待ち受けるジャン・グレミヨンの『白い足』…。などと言っていたらきりがないが、このあたりはまさに残酷と優美の祭典だろう。さらにそこへ、ベッケルによる新鮮な「戦後派(アプレゲール)新婚カップル映画」が『幸福の設計』『エドワールとキャロリーヌ』『エストラパード街』と3本入っているのもまたとない贅沢だ。 ここで取り上げられるオフュルス、ベッケル、グレミヨン、ギトリ、パニョルといった映画作家たちが1960年頃までに引退に追い込まれ(あるいは逝去し)、大親父ジャン・ルノワールでさえその後活躍の場が狭められたことを知るならば、この作品の並びは映画芸術のひとつの臨界点を示してさえいる。デジタル上映がほとんどなのはやむを得ないが、ともかくスクリーンが欲しくなる映画ばかりだ。33作品のほぼすべてを見ている筆者もいくつかは再見したいところだ。『偽れる装い』のヒロイン、ミシュリーヌ・プレールは100歳にして今も健勝だという。最上の敬意を捧げたい。

22/12/22(木)

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