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Tak

美術ブロガー

諏訪敦 眼窩裏の火事

写実絵画(リアリズム)の優である諏訪敦ですが、目の前にあるモノや人物を写真のように観たままに描くだけの作家ではありません。例えば人物画の場合、取材対象の選択を重視しつつ背後にある個人的歴史や思考など多岐に渡る情報を取り込み、対象との膨大な時間を費やしコミュニケーションのプロセスまでも素材とする制作スタイルを執ります。たとえそれが今は亡き人の場合でもそのスタイルは変わりません。 例えば自身のルーツを探る旅でもある終戦直後の満州で亡くなった祖母をテーマにした「棄民」や、1999年から描き続けてきた舞踏家・大野一雄(2010年没)の姿を、気鋭のパフォーマー・川口隆夫の協力を得て亡き大野の召喚を試み描き上げた新作《Mimesis》など写実の枠を超越した作品を今回の個展で多く見せています。諏訪の作品は『どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集』、『諏訪敦 絵画作品集 Blue』や、ギャラリーで目にしたことあるかもしれませんが、何と言っても今回の個展は「見せ方」が秀逸なのです。3つのセクションから構成されており、それぞれ単体でも十分個展として成立するだけの質量それに物語性が保たれています。 「第1章 棄民」では、諏訪の肉親(父や祖母)を、「第2章 静物画について」はコロナ禍のなかで取り組んだ静物画の探求と自身が患った眼病(今回の展覧会タイトルに由来)を、「第3章 わたしたちはふたたびであう」では、「人間を描くとは如何なることか? 絵画に出来ることは何か?」という問いに対する答えとして、対象人物と相対する時間を超越した作品を抜群の画力で魅せてくれます。 展覧会タイトル『眼窩裏の火事』とは何を意味しているのでしょう? 閃輝暗点(閃輝性暗点)という脳の血流に関係する症状にここ何年か諏訪自身悩まされて来たそうです。具体的には、突然視野の中に稲妻のようなギザギザの光の波が現れ、徐々に四方に広がり、その場所が暗くはっきり見えなくなる現象です。網膜に映るギザギザの光の波をもまるで陽炎の如く「写実画」として描いた作品が「目の中の火事」や「眼窩裏の火事」です。人物画と比べると派手さはないものの「第2章 静物画について」はこの展覧会において抜群の存在感を放っており、タイトルとして申し分ないとご覧になれば納得がいくはずです。諏訪敦という画家と同時代を生きていることに喜びを感じると共に、常に進化・深化し続ける作品を追いかけられる愉悦を味わえる至福の展覧会です。

23/1/5(木)

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