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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

ヒトラーのための虐殺会議

エンドロールを含めて、一切、音楽はない。そういう虚飾を排除した、誠意ある作り方をしている。 1942年1月20日正午から2時間にわたって開かれた会議の記録。参加者が集まるところから始まり、休憩時間を含め、散会するところまで、映画そのものの上映時間と、劇中の時間が一致する。おそらく、1秒もカットされていないのだろう。 ドイツの俳優をよく知らないせいもあって、俳優が演じる劇映画を観ている気にならない。会議を傍聴している気分になってくる。 欧州の1100万人のユダヤ人をどのように集め、どのように効率よく“最終処分”するかを議題に、まるで大企業の新規プロジェクトのための会議のように論じられる。 参加しているのは、ナチス党、親衛隊、政府各省の官僚たちで、微妙に利害が対立する。懐疑的な発言をする人も、最終処分そのものに反対しているのではない。手続きや権限の移譲をめぐり、意見を交わされ、ときに緊張する場面もある。どの国も役人の習性というのは同じだという発見もあるが、それは付随的なものだ。 1100万人を殺す計画(実際、600万人が殺された)の実行作戦をビジネスライクにしている“彼ら”は、休憩時間には、自分の子供の話をしている“普通の人”でもある。 何度も、観るのを止めようかと思った。気分が重くなる、なんてものではないからだ。しかし、「しんどいけれど、見なければならない映画だ」と自分に言い聞かせながら、観た。 救いはない。事実の前に押しつぶされそうになる。観終わって、しばらく何もできなかった。 分断の時代とされる、いまの世界情勢への警告である──とまとめたいが、そんなきれいごとではすまされない映画だ。よくぞ作ってくれた。だから、ひとりでも多くの人に観てほしい。

23/1/19(木)

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