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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
#マンホール
23/2/10(金)
TOHOシネマズ 日比谷
ワンシチュエーションものには俳優の手腕が試されるマジックがある。なぜならばカメラはそこに居るひとりの俳優の顔を映し出し、状況によって変化していく感情の起伏をたったひとりで表現しなければいけないのだから。 近年ではライアン・レイノルズが箱に閉じ込められる演技で話題となった『[リミット]』が記憶に新しいが、その後、レイノルズは『デッドプール』で大ブレイク。本作『#マンホール』は間違いなく中島裕翔の代表作となり、さらなる俳優としての道を切り開く演技を見せつけてくれた。 しかも本人の演技力を最大限に発揮させる(原案も含めた)脚本を書いたのが『ライアーゲーム』『マスカレード・ホテル』の岡田道尚。マンホールに落ちてからの発想は、現代社会がなせる技と言えるSNSを駆使した情報入手であり、もちろん主人公は待つだけではなく頭を使って危機を乗り越えようともする。 そこは不動産会社、営業成績No,1という肩書きだけで、過去を描かずとも納得出来てしまう話術と頭の回転の良さが備わっていることを意味したキャラクター設定が真実味を与えている。 そして『海炭市叙景』や『私の男』などで多くの映画賞を受賞し、人間の本質をこれでもかと探求する映画作りで定評のある熊切和嘉ならではの、主人公が壊れていく過程を声色や表情を使って至近距離で見せていく画は、観客である私たちが主人公の人間性を疑い始め探っていくための鍵の役割を果たしていた。無駄なシーンなんてひとつもない、見事なサイコミステリーだった。
23/2/9(木)