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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!
五十川 晶子
フリー編集者、ライター
歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎
23/2/2(木)~23/2/25(土)
歌舞伎座
二月大歌舞伎第二部 『女車引』 立役を女方に替えるという趣向の演目が歌舞伎にはいくつもある。『女暫』や『女鳴神』『女戻駕』、『女定九郎』なんていうものも。ヒロインはたいてい本編の主人公の女房や恋人、あるいは妹だったりするのも面白い。またパロディのような内容のため、本編を知っていると一層楽しめる。二月の歌舞伎座第二部、清元の舞踊『女車引』もその一つ。 『菅原伝授手習鑑』の三つ子の兄弟といえば、松王丸、梅王丸、桜丸。その兄弟で敵味方に分かれて対決する荒事の一幕が『車引』だ。『女車引』はいわば三つ子の嫁バージョン。夫の名にちなんで、千代、春、八重という名の三人が、嫁同士ならではの華やかで色香あふれる踊りを繰り広げる。 『菅原』本編を少しだけ振りかえっておく。松王、梅王、桜丸は、それぞれ藤原時平、菅原道真、斎世親王の牛車の舎人を務めている。ところが道真公は、時平の讒言により左遷の憂き目に遭う。親王の斎世が道真公の娘の刈屋姫と逢引きをしていたことが、政変の端緒となってしまったのだ。桜丸はそのおぜん立てをしていたことにより、後に切腹することになる。 時平公の牛車を前にして、梅王と桜丸が松王丸ともみ争うのが『車引』だが、『女車引』では、敵味方となった三つ子の関係性をほのめかしながらも、嫁三人はあくまで和やかに踊るところが眼目だ。 まず春と八重が花道から揃って出、そして上手より千代が長柄の傘をかついで出て押し合うところは『車引』を連想させる。 三人とも、夫の名前にちなんで松、梅、桜の着物を身に着けているのにも注目。八重は若々しく振袖姿で鬘の挿し物も愛らしい。春はちょっと落ち着いた色の梅の柄で、千代は松王丸と同じように雪持ち松の柄で、舎人が身に着ける白丁を着けて出てくる。 包丁仕事に慣れない八重に対して千代がトントンと手際よく手伝うくだりもあり、ここは『賀の祝』を思わせる。三つ子の父白太夫の七十のお祝いで、三人の嫁たちが仲良く膳を用意する場面だ。 さらに団扇太鼓を使って鹿島踊りに。これらのやりとりや踊りの随所に、三人の嫁たちの個性や間柄、さらにその背後に三つ子たちの立場もにじんで見える。 吉原の芸者衆がお芝居を取り入れて踊った「俄踊り」が由来のこの舞踊、『車引』の趣向をあちこちに見つけながら、春先らしい朗らかで華やかな雰囲気を味わいたい。 千代を中村魁春、八重を中村七之助、春を中村雀右衛門が勤める。
23/1/20(金)