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水先案内人のおすすめ

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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

オタール・イオセリアーニ映画祭 ~ジョージア、そしてパリ~

1987年に出た映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」の400号記念特別号は、ヴィム・ヴェンダースに編集が託された号だ。世界の名監督たちに映画化したいアイデアを語ってもらうという贅沢な内容で、ページごとに著名な映画作家の名が並んでいたが、その中に、まだ日本でほとんど知られていないオタール・イオセリアーニの名があり、大いに気になった。 その後、ようやく日本公開された「ソ連のグルジア」時代のイオセリアーニ作品『田園詩』(1976年)を見ることができた。主人公はのどかな村へ合宿に来た都会の音楽家たちだが、何事も起きない淡々としたタッチに魅力を感じ始めたところで映画は曲者ぶりを発揮し始める。演奏の練習の最中に何の前触れもなく、ストーリーなんか知りませんとばかりに飛行機が飛んでくるのだ。この面妖さ、ただ者ではない。 とはいえ、イオセリアーニの映画が次々と日本の劇場にかかるのは21世紀に入ってからだ。フランス亡命後、特に後年のイオセリアーニ作品は人生讃歌の一面が打ち出される映画も多いが、一方で、この先何が起きるか分からないという不穏さもしばしば兼ね備えている。今回が日本初上映となる亡命後の第一作『月の寵児たち』(1984年)は、おかしなテロリストたちを軸にいくつもの物語が気ままに交差するのだが、突然人間が爆発したり、呆気に取られるうちにうかうかと映画は終わってしまう。そして、同じく初公開で西アフリカの一集落が舞台の『そして光ありき』(1989年)では、死んだ人間がいきなり甦ることなど日常茶飯事だ。村を出て徒歩で旅する男は、裸で街を歩くなと言われて慣れない西洋の服を着ることになるのだが、こういう「文明」の洗礼の方が何やら異様に見えてしまう。 初めて買ったあの「カイエ」から35年、ついにイオセリアーニの全監督作を日本のスクリーンで観られる日が来た。滑稽さと悲哀の中に絶えず「唐突」をしかけてきたそんな不敵な映画たちを、それでも一つ一つリラックスして楽しんでいただきたい。

23/2/13(月)

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