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村山 章
映画ライター
マーサ・ミッチェル -誰も信じなかった告発-
Netflixの短編ドキュメンタリー『マーサ・ミッチェル -誰も信じなかった告発-』が、しれっとアカデミー賞の短編ドキュメンタリー賞の候補入りをしていた。第37代アメリカ合衆国大統領リチャード・ニクソンの評判を地に落とした「ウォータゲート事件」の時にニクソンの腹心だった司法長官の妻が、事件の主導的立場にいたのはニクソン大統領だったと感づいて、真相を世間に訴えようとした実話を扱っている。 40分という短さもあって、見やすさと物足りなさの狭間に位置する作りだと思うのだが、歴史的事件の裏にはたくさんのドラマがあり、知られざる一端を覗くことで歴史そのものの見え方が少し変わってくる効果がある。特にこの映画が扱うマーサ・ミッチェルは、いわば保守派ブルジョア社会の中で生きてきた人物だが、党派性よりも正義を選んだことでニクソンも夫も敵に回し、数奇な運命に見舞われることになった。 同調圧力やことなかれ主義や保身に立ち向かうことがどれだけ難しいか、そしてどれだけ意義があることかを身をもって伝えてくれたマーサ・ミッチェルのことを知る絶好な入り口になる作品だし、マーサ・ミッチェルをジュリア・ロバーツが、夫ジョン・ミッチェルをショーン・ペンが演じたドラマシリーズ『ガスリット 陰謀と真実』(アマゾン・プライム・ビデオ内のLIONSGATE+で配信中)とも併せて楽しみたい。ちなみに妄想や妄言扱いされた訴えが後に真実だと認められることを、アメリカでは「マーサ・ミッチェル効果」と読んでいて、本ドキュメンタリーの原題にもなっている。
23/2/5(日)