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夏目 深雪

著述・編集業

コンパートメントNo.6

フィンランド出身のユホ・クオスマネン監督の新作で、処女長編『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(16)がカンヌのある視点部門グランプリを獲ったのに続き、この作品もコンペ部門でグランプリを獲得した。 モスクワに旅行中のフィンランド人ラウラが主人公。同性の恋人にドタキャンされ、ペトログリフ(岩面彫刻)を見に行く一人旅をするラウラが寝台列車で同席したのは、粗野なロシア人労働者リョーハ。 現在進行中の戦争のことなど頭をよぎるが、2010年に発売された小説を原案にしていて、舞台は90年代である。携帯もSNSもない時代の、北極圏を舞台とした「ロードムービー」という趣の方が強い。 若い女性なのに長時間、粗野な男性と密室にいなければいけないという制約が、2人の距離を縮め、思わぬ結末に向かって列車とともに話は転がっていく。国籍も住む世界も違う2人が、心通わせ合う過程が自然に描かれ、見事。「ガール・ミーツ・ボーイ」の物語でもあり、映画の原初的な魅惑に満ちながら、現代的な作品でもある。

23/2/4(土)

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