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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

バビロン

ハリウッドの狂乱、その蕩尽のすさまじさを描くこの映画そのものが、壮大な蕩尽、浪費であり、だからこそ贅沢な映画だ。実在のスターや会社が実名で語られ、これはあの人がモデルだなと思う人物もいたり、虚実ないまぜの世界。 スマホでも映画が見られる時代だが、年に数本は、「絶対に映画館でなければ」というものがあり、その一本。 冒頭の大邸宅でのパーティーや、後半の怪しげな館の怪しげなショーのシーンでの、画面に溢れる情報量の多さは、大スクリーンでなければ、把握すら難しい。 そして、この映画も『ラ・ラ・ランド』同様の音楽映画なのだ。いい音響の映画館で聴きたい。 主要人物のひとりをジャズ・ミュージシャンにしたことで、映画が「音」を持ったことが、いかに大きな革命であったかが明確になっている。映画とジャズが相互に影響しあっていくことも体験できるのも、見どころというか、聴きどころだ。 1920年代末から30年代が舞台で、その時代の映画界を再現するセットのすばらしさ。VFXは抑制的で、原寸大のセットで生身の人間たちによって演じられている。だから、大作の割に、エンドロールでは、VFX関係のスタッフが流れる時間は短い。むしろ、演奏家たちの名前のほうが多かったように思う。それくらい、音楽も丁寧に作られている。 ただ、爬虫類、フリーク、糞尿などが苦手な人には、しんどいシーンもある。実際、私は爬虫類が苦手なので、そのシーンではうつむいていた。でも、それは、まさに目を閉じるか、うつむいていればいいだけの話だ。

23/2/8(水)

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