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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ちひろさん

観終わって、スタッフ・キャストに心の底から「素敵な映画を作ってくれてありがとうございます」と頭を下げたくなる映画が、稀にある。例えば昨年の、『ハケンアニメ!』『コーダ あいのうた』のような映画。今泉力哉監督、有村架純主演の『ちひろさん』はそんな稀な、宝石のような映画だ。 長編デビュー作『愛がなんだ』以降、『街の上で』『窓辺にて』で特異な演出力が高く評価されている今泉力哉。『花束みたいな恋をした』『前科者』で人気と実力を証明した有村架純。本作はそんなふたりの、『有村架純の撮休』(WOWOW)に続くコンビ作だ。未読だが、原作は月刊漫画誌『Elegance イブ』で2013年から2018年まで連載された安田弘之の同名漫画。 元風俗嬢の主人公ちひろ(有村)が、とある海辺の町の小さなお弁当屋さんで働きながら、心に傷や悩みを抱えてうまく生きることができない人々と交流、それぞれの人々の生き方に影響を与えていくというシンプルな物語だ。 今泉監督の“日常会話の間”が絶妙な演出、どこにでもいる平凡な女性の役を得意とする有村の持ち味が見事に噛み合って、“生きづらさ”を感じる人々の人生が淡く浮き彫りにされていく。観る者の孤独感と呼応し合っていく。作為や不自然さをまったく感じさせない今泉の演出力と演技を感じさせない有村の脱力演技の融合が素晴らしい。 ちひろさんの元風俗嬢という過去を恥じない融通無碍な人生は、次の仕事に移ってもきっと幸せだろうと確信できるラスト・シーンが、観る者をほのぼのした気持ちにさせてくれる。観る者の心に希望と勇気の灯を点してくれる。今泉力哉は現代のフランク・キャプラだ(ちょっとホメすぎかな)。

23/2/24(金)

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