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ユニークな選択眼!

春日 太一

映画史・時代劇研究家

対峙

どこまでも繊細に表現された心理ドラマに圧倒された。 学校での銃乱射事件で我が子を失って苦しむ夫婦が、セラピーの一環として加害者の両親と会う。登場人物は、主にこの4人。ピリピリとした空気が張りつめる中、教会に設けられた面会室で両者が対峙する様が、粛々と綴られていく。 被害者側が問い質し、加害者側が語る形で話は進む。なぜ、あのような凶行に臨んだのか。どこかで止めることはできなかったのか──。 そうした話を聞きながら、被害者夫婦、そして観客は知ることになる。加害者の両親もまた、ここに至るまで苦しみ抜いていたのだと。ふたりは、苦しむことすら許されないで生きてきた。だが、それを知ったところで被害者側はそれを簡単に受け入れる訳にはいかない。 もう取り返すことのできない喪失感をそれぞれに抱えながら生きる、四者四様の苦しみが、狭い空間で静かにぶつかり合う。 憎悪、悔恨、贖罪、そして赦し。ひとつひとつの心情のグラデーションが丁寧に紡ぎあげられており、遠くにあったそれぞれの心がやがてひとつに溶け合っていくプロセスに説得力を与えていた。 4名の俳優はそれぞれ名演だが、中でもマーサ・プリンプトンが出色。今にも壊れそうな被害者の母親の心理を、実にナチュラルかつリアルに演じきっている。

23/2/7(火)

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