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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介
岡田 秀則
国立映画アーカイブ主任研究員
カラボギャラリー第10回企画展 -色を記録する展-
22/12/12(月)~23/3/10(金)
東京工芸大学 厚木キャンパス 12号館2階カラボギャラリー、 東京工芸大学 厚木キャンパス
今回は、ややハードコアな映画・写真技術史の展覧会をご紹介する。東京工芸大学はもともと、小西本店(その後小西六写真工業、現在のコニカミノルタ)が設立した写真技術のための教育機関が前身だが、その流れで現在は色彩にまつわる研究もさまざまな形で展開している。この「色を記録する展」は、当時の研究資料を分析しながら日本の写真工業界がいかにカラー写真やカラー映画を開発してきたかを伝えてくれる得がたい企画だ。 まず戦前期から進められてきた天然色の印画紙の研究には、当時の技術者たちの苦心が偲ばれる。そして三色分解した白黒ネガフィルムから80年以上の時を超えてカラー合成された画像は、現在のデジタル写真とは異なる色域を感じさせて興味深い。 そして映画。日活アクションを飾ったかの大スター、浅丘ルリ子が14歳でデビューした井上梅次監督の『緑はるかに』(1955年)は、小西六が開発した日本独自のカラー映画技術「コニカラーシステム」を用いた初の長篇映画だ。当時は貴重だったカラー映画を前提としたオーデイションで約3000人の中から決まったという。この展示ではその時使われた、光を分解して3本のフィルムに記録するコニカラーカメラや、浅丘ルリ子の最終選考の時のカラー画像も展示されている。また解説で感じ入ったのは、もし戦争がなかったら海外と研究交流も続き、爆撃による研究所の焼失もなく、もっと早く開発されたはずのコニカラーシステムが短期で撤退することもなかっただろうというくだりだ。富士フイルムもそうだったが、まだ貧しかった日本が世界を出し抜く映画技術を目指したその心意気に思いを馳せた。 東京工芸大学は東京中野と厚木という二つのキャンパスを持つが、本展の会場は厚木キャンパス。行き帰りのバスの時間もしっかり確認して訪問することをお勧めする。
23/2/15(水)