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平辻 哲也

映画ジャーナリスト

劇場版 ナオト、いまもひとりっきり

東日本大震災から12年。2020年のコロナ禍もあって、震災や原発事故への関心が薄れているのを強く実感する。そんな中、今も原発事故とその後の対応に翻弄された人々を追い続けているのが中村真夕監督だ。 アメリカの永住権を持ち、日米を行き来する中村監督は、2022年には黒沢あすか、神尾楓珠主演の『親密な他人』、菜葉菜主演の『ワタシの中の彼女』を発表。ドキュメンタリーと劇映画も軽やかに渡り歩いている。 14年には、原発事故による全町避難で無人地帯となった福島県富岡町にいまも一人で暮らす男性を追ったドキュメンタリー『ナオトひとりっきり』を発表したが、以降も足繁く通い続け、原発事故後、人の人生を金で解決しようとする不条理に立ち向かった男の思いを描いた。 全町避難時には公共の交通手段もなかったため、ペーパードライバーだった中村監督は自動車教習所に通い直し、レンタカーでの単独取材を続けたというから、すごい気合ではないか。原発事故を風化させてはいけない、との強い思いを感じる作品。昨今、電気代が高騰し、原発再稼働の声も聞こえるが、再稼働の先にあるものが何かを再確認できる。

23/2/25(土)

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