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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
映画ドラえもん のび太と空の理想郷
23/3/3(金)
TOHOシネマズ 日比谷
「映画ドラえもん」の前2作は、藤子・F・不二雄が原作を描いてアニメになった過去作のリメイクだったが、今作は完全なオリジナルストーリーで、脚本は古沢良太。 古沢良太脚本らしい、冒頭にいくつかの謎めいたシーンがあり、それが未解決のままストーリーが展開し、ラストになって、その謎が一気に修練されていく構成。その意味でも、これは紛れもない、古沢作品だ。 「ドラえもん」に限らず、「名探偵コナン」「クレヨンしんちゃん」などの劇場版は、子ども向けではあるが、親も一緒に見に行くので、大人が見ても面白いように作らなければならないという、かなり高度な作劇術が求められる。普段、子ども向けのものを書いていない古沢にとっても、難易度は高かっただろうが、傑作となった。 空の理想郷「パラダビア」に着いたのび太たちは、そこにいる人々がみな、欠点のないパーフェクトな人間であると知り、自分たちもそうなろうとする。のび太はなまけ者で成績も悪くスポーツも苦手と欠点だらけだが、ジャイアンは乱暴、スネ夫は意地悪、しずかちゃんもちょっと強情と、それぞれ欠点がある。しかしここで暮せば、完璧な人間になれるらしい。パラダビアの三人の指導者も、完璧な人たち。 ところが…と、あとは見てのお楽しみなのだが、賞金稼ぎ、マッドサイエンティスト、パーフェクト・ネコ型ロボットなどが登場するので、SF冒険映画ファンとして、楽しんだ。 昨年の『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は、ウクライナ戦争開戦直後に公開され、その類似性に驚いたが(もちろん、作られたのは開戦のはるか前)、本作でも、ドラえもん映画は現実を先取りしている。ストーリーは一年前に考え出されているはずだが、理想郷の正体は、旧統一教会のメタファーにも読み取れてしまうのだ。時代の空気を先取りするのが優れた映画なら、「ドラえもん」はその最良の映画だ。 ひとはみなそれぞれ欠点があり、それでもいいんだというメッセージもあり、多様性の時代を生きる子どもへのメッセージでもある、と書くと説教くさい映画みたいだけど、押し付けがましくないのは、ドラえもんに愛嬌があるからで、そこがいい。
23/2/28(火)